修二は鳴り響く携帯電話に手を伸ばした。
どうせ、一歌からまた抗議の電話だろうと思うと、自然に笑いが込み上げた。
あの子の相手をしているのは飽きない。
普通の女は皆、自分が微笑みかけるだけで自我をなくし、頷くだけの人形と化す。
例えどんなに売れている女優も例外ではない。
そんなふうにならないのは、自分の仕事にプライドを持っている女か、そんな男には引っ掛からない、と無理に突っ張る女だけだ。
だが、本気で口説けば後者は確実に堕ちる、という自信が修二にはあった。
それでも堕ちない一歌は前者、ということになるが、彼女は違う。
ただ、必死に自分を信じようとしているのだ。
まるで、昔の自分みたいに――……。
「まだ何か?」
修二は画面も確認せずに、電話に出た。
「誰かと電話してたの?」
ハスキーでいて、可愛らしさを含む声に、修二の顔から笑みが消えた。
「……別に」
修二はわざと語尾を上げ、平静を装った。
「どうなった?」
電話の相手は修二の様子を特に気にする素振りも見せずに言った。
「お前に関係ないだろ?」
修二は溜め息を吐いてから返す。
「あるよ。私、振られたんだし」
彼女は、はは、と笑いながら言った。
その笑い声が修二の耳をくすぐる。
「もう関係ない」
修二はそれを振り払うように、低い声を出した。
「そうだね」
彼女はそれだけ言うと、じゃあ、と小さく言い、電話を切った。
いつも一方的な彼女。
最近は出会ったばかりの頃を思い出してばかりいた。
一瞬、日本人離れしているように見えるが、よく見ると日本人的な顔立ち。
それは、今まで目にしてきたどんな女より美しかった。