一歌は怒りに口元を引きつらせた。
どうせ、売れていないから、仕事がない日の方が多い。
修二としてはただ訊いてみただけなのだろうが、今の一歌には嫌味としてしか取れなかった。
それは、自分の性格がひねくれているせいではなく、修二の性格に問題がある。
一歌はそう思いながら、口を開いた。
「だから、お断りしますって」
一歌はオフかどうかには触れずに答えた。
癪に障るので、敢えてだ。
「仕事ないのね。じゃ、明日、夕べのライブハウスの前に三時に来て」
修二はそれだけ言うと、勝手に電話を切った。
結局、肝心な話が纏まらないまま、電話からは不通音が流れている。
一歌はあまりの修二の身勝手さに呆気に取られたまま、柴田の元へと戻った。
その時、タイミング悪く、テレビ画面には修二の姿が映し出されていた。
今の今で修二の顔を見るのは腹が立って仕方無い。
だが、一歌はそのままテレビを見続けた。
海外での受賞後、初の主演ドラマは、かなりの話題になっているようだ。
恋愛を絡めた刑事ドラマで、パートナーには若手人気俳優、ヒロインにはモデル上がりで、今人気がうなぎ登りの女優。
ヒロイン役に抜擢された女優、加賀美れなは、確かに顔は可愛い。
だが、芝居は下手。
それが一歌が彼女に抱いているイメージだった。
そんな子が、海外で受賞した俳優の相手役など、務まるのだろうか。
一歌は芸能ニュースを見ながらそんな感想を抱いた。
やはり、この世界は才能や実力だけでは駄目なのだ。
加賀美れなより演技が上手くて、美人で、修二の相手役をやりたい女優なんて、ごまんといるだろう。