「主題歌の話、今すぐ取り消して下さい」


一歌は気を落ち着けるよう、努力しながらそう言った。


興奮していたら、まともに会話など出来ないからだ。


一瞬、喜ぶ柴田の姿が頭に浮かんだが、すぐに消えた。


そんなことはどうでもいい。


「何で? 折角のチャンス、無駄にするの?」


修二が途端に感情を読み取りづらい声に変えるので、一歌の興奮した気分は一気に覚めた。


修二には、相手の気分を引き摺る力がある。


それは、俳優という職業特有のものなのか、それとも、そういう力があるから俳優として成功しているのか。


「だから、夕べもお断りしましたよね?」


一歌は冷静になった頭で言葉を選んだ。


「うん、だからだよ」


修二が相変わらずの口調で言うので、一歌には全くその意味が分からなかった。


「はい?」


一歌は首を捻りながら、声を出した。


「ま、お詫びのプレゼントみたいなもん?」


一歌は修二のその言葉を素直に受け取ることが出来ずにいた。


絶対、裏で何か考えている。


そうと思うことしか出来ないのだ。


誰だって、嫌いだと思った人の言葉など、素直に受け取れないものだ。


「信用してないだろ?」


一歌は修二の言葉に口を結んだ。


その通りだ。


「本当だよ。あとさ、誘いたいところがあるんだけど」


修二は一歌の気持ちなどお構い無しに話を進めた。


やっぱりあるじゃないですか、という言葉を飲み込み、一歌は別の言葉を口にした。


「お断りします」


無駄に話す必要はない。


「明日、仕事入ってる?」


修二は一歌の断りなど聞く耳持たぬ様子だ。