「あれが、浅田君の新しいお気に入り?」


壁にもたれ掛かる修二に、離れたはずの井口が近付いてきた。


手には綺麗な色をしたカクテルの入ったグラスがある。


「嫌な言い方」


修二は目を細めながら、小さく笑った。


「だって、事実でしょ?」


井口は含み笑いを浮かべながら、グラスに口をつけた。


「まあ、否定はしませんけど」


修二にもそれに倣い、手にしていたグラスを持ち上げた。


中のカクテルはすっかり温くなっている。


カクテルが喉を通る瞬間、ふいに一歌の、今にも泣き出しそうな顔を思い出した。


大きな茶色の瞳を潤ませる姿。


目の前で泣き出すかと思ったが、どうにか堪えていた。


多少、言い過ぎたかもしれないが、根性はある。


修二はそう考えて、小さく笑った。


まだまだ、狙い甲斐がありそうだ――……。