自分には実力がある。


だけど、チャンスがないだけ。


タイミングが悪いだけ。


皆、見る目がないだけ。


ずっと、自分に言い訳をし、そう言い聞かせてきた。


そうして、自分を保って、歌手を続けてきたのだった。


なのに、目の前にいる男は、そんな一歌の心情を知ってか知らずか、簡単に事実を突き付けてきた。


一歌は泣き出したい思いをぐっと堪えて口を開いた。



「貴方みたいな人、大嫌いです」


その瞳には、うっすらと涙が溜まっている。


こんな人に、自分の何が分かるというのだろう。


修二は日本中の誰もが知っている人気俳優で、おまけに海外で賞まで獲っている。


どう見ても、この世界で「成功」している人間だ。


そんな人に、自分の気持ちなんて、分かるはずがない。


一歌は悔しい気持ちを噛み締め、竣平に申し訳なく思いながらも、打ち上げ会場を後にした。


修二みたいな男と、一秒でも長く同じ空気を吸っていることが耐えられなかったのだ。


一歌は会場を出るなり、悔しさで大声を出して泣いた。


こんな想いをしたくて、今まで頑張ってきたわけではない。


いつか報われると思って続けてきた。


だけど、修二に言わせれば、「無理」の一言なのだ。


頑張ろう、続けよう、と思う反面、もう限界だ、ずっとこのままなのだ、とは考える自分は確かにいた。


でも、まだ諦めてはいなかったのに。


一歌は人目も振らず、とにかく泣き続けた。