顔立ちは決して悪くないし、角度や映り方によってはかなりの美人に見える。
それでも、見る者を一瞬にして引き付ける程のものはない。
スタイルだって、中の上程度だ。
ただ、歌うことが好きだった。
歌うことが好きで、ずっと歌っていたくて、この世界に飛び込んだのだった。
だが、現実はそんなに甘くなかった。
デビューから早五年。
一歌はいつもチャート二桁にぎりぎり入り込める程度のセールスしか出せていなかった。
全く売れていないわけじゃないんだから、いいじゃない、と他の子達は簡単に慰めの言葉を口にした。
自分達は、少なくとも二十位以内に入れるから、言える言葉だ。
一歌はそんな慰めの言葉を聞く度にそう思ってきた。
だから、自分の気持ちなんて、分かるはずない、と。
「売れなきゃ駄目なの?」
笹原が不思議そうな顔をして、一歌に尋ねた。
一歌はその質問を、二度ほど、頭の中で反芻してから、答えを口にした。
「……歌ってる意味、ないじゃない」
一歌は答えながら、セットされた髪を崩した。
今日は生放送の歌番組の出演で、テレビ局を訪れていた。
それも、他の売れている歌手の引き立て役と、場繋ぎみたいなものだ。
生放送の、売れている歌手を何組も集めることは容易ではない。
それに、リリース時期も売れている者同士はそんなに被らないのだ。
互いに、利益を計算している為だろう。