だが、笹原は仕事を真面目にこなす好青年であり、そんな一歌の不満も数週間彼と仕事をするうちに消えていった。


今では、下手な友人などより、悩みや仕事のことを話しやすい程だ。


「そういう話じゃなくて……」


一歌は天井を仰ぎながら口を開いた。


別に、海外で賞を獲ったのが羨ましいわけではない。


まあ、グラミー賞なんて獲れるなら欲しいけど、と一歌は心の中で呟いた。


「ん? じゃあ、どういう話?」


笹原は小首を傾げながら、一歌に尋ねた。


一歌はそれに対し、ううん、と一度小さく唸ってから喋りだす。


「何ていうかさ、あまりにも違うっていうの?」


同じ世界にいるのに、放つ輝きも、浴びる輝きも違う。


自分と浅田修二は、何もかもが違った。


一歌が歌手としてデビューしてから、既に五年の月日が経過していたが、芽が出る気配は一向になかった。


「才能……は、なくないしね」


笹原が項垂れた様子の一歌をまじまじと見ながら言った。


確かに、一歌はそこらの歌が下手なアイドルとは違い、歌唱力はあった。


でも、歌が上手い、というだけで簡単に売れる世界ではない。


「あ、華がない、とか?」


笹原の言葉に、一歌は胸を抉られた思いがした。


彼なりにフォローはしたつもりなのだろうが、あまりに図星な発言だった。


「……もう、いいよ」


一歌自身、自分の容姿に華がないのは知っていた。