「大恋愛してみない?」という言葉が、一歌の頭にはどうにも引っ掛かる。
何処かの三流ドラマの宣伝文句のようだ。
一歌は、笹原に気付かれないように紙切れを取り出し、もう一度それを眺めた。
そして、一息ついてから、それをくしゃりと丸め、再度バッグに放り投げた。
幾ら考えたって仕方がない。
今後、彼と会う事はまずないだろう。
会ったとしても擦れ違う程度か、遠い距離だ。
恐らく、二度と会わない可能性のほうが高い。
自分と修二ではいるところが違うのだ。
同じ世界にいても、はいそうですか、と会える関係ではない。
だが、一歌の耳には、修二の囁くような甘い低音が残っていた。
そして、強く掴まれた腕の感覚。
一歌は頭を振りながら、仕方ない、と考えた。
相手は、「あの」浅田修二なのだ。
女性誌の「抱かれたい男」アンケートでも、「好きな俳優」アンケートでも、いつも堂々と一位を獲得するほどの男。
そんな人にあんなことをされて、少しもときめかない女なんて存在するわけがない。
例えタイプでなくとも、かっこいいと誰もが思ってしまうのが修二の魅力なのだ。
一歌は静かに走る車の中で、必死に自分の鼓動の早さを正当化しようとした。