笹原が運転する車の中で、一歌は先程修二に渡された紙切れを開いた。
汚い字だと思ったが、書き殴ったようにも思える字だ。
だが、あの場で書いたわけではないのは明白だった。
一歌はそんな修二の姿は見ていない。
ということは、前もって用意されていたものという事になる。
もしかしたら、殴り書いたように見せる寸法なのかもしれない。
一歌は紙切れを見ながら、目の前にあった修二の整った顔を思い出した。
理解不能。
そんな言葉しか浮かんでこないほどに、一歌の頭の中は混乱していた。
大体、自分を誘ったところで何になるというのだろう。
単に、彼の好みだったのだろうか。
それとも、気が向いただけなのか。
一歌は考えを頭の中に巡らせたが、やはり同じ結論に辿り着く。
何度色んなことを考えても、結局は誘い方に問題がある、と思うのだ。
「大恋愛してみない?」なんていう誘い方は、答え方すら考え付かないのだ。
「……一歌さん、あんなの真に受けないでよ?」
一歌が悩み過ぎた挙句、唸り声に近い声を上げていると、笹原がぼそりと忠告をした。
「わかってるわよ」
一歌は紙切れを慌ててバッグに仕舞いながら答えた。
一歌はわざわざ笹原に忠告されなくとも、そんなことは理解していた。
そんなのに引っ掛かるほどガキでもなければ、業界慣れしていないわけでもない。
ただ、何となく引っ掛かるのだ。