「修二くん、何処行ってたの?」


修二の姿を見付けた美香子は、怒りを露にした声でそう言った。


美香子は修二のマネージャーで、長身の美女だった。


「ごめんごめん」


修二は顔の前で手を合わせ、美香子に謝罪した。


「もう、まだ仕事はあるんだからね。勝手に歌番組のスタジオには行っちゃうし」


美香子は高級そうな腕時計に視線を落としながらぶつぶつと文句を言った。



美香子はデビューして間もない修二に、何かを感じ、自分から彼のマネージャーを申し出た女だった。


美香子は芸能界の右も左も分からない修二に、次々と仕事を取ってきたり、オーディションを受けさせたりし、見事に彼を今の地位まで上らせた。


そんな美香子には修二も感謝していて、彼女に頭が上がらないのは事実だ。


「次は?」


修二は美香子の隣に並び、スケジュール帳を覗き込んだ。


端から見れば、美男美女のお似合いの恋人同士に見える。


だが、当の本人達にはその気は全くなく、互いに信頼のおけるパートナーだと思っているのだ。


「次は女性週刊誌の取材。その次は、深夜のトーク番組の収録」


美香子はスケジュール帳に書き込まれている分刻みのような予定を読み上げた。


「相変わらずハードですね」


修二は小さく息を吐いてからそう口にした。


「芸能人にとって重要なのは?」


美香子はそんな修二の態度に、彼を少しだけ睨むように見た。


「人気、ですね」


修二は即答した。