「嫌ですっ」
警戒して身を縮める一歌に、修二はもう一度溜め息をついた。
そして、ジャッケットのポケットから何かを取り出し、一歌の手に無理矢理握らせた。
「気が向いたら連絡ちょうだい」
修二が一歌に握らせたのは紙切れだった。
「ちょ、ちょっと……」
一歌の叫びも虚しく、修二はひらひらと手を振りながら去っていった。
その後姿さえも、かっこいいと称せるものだ。
「な、何なの?」
一歌はあまりに突然の出来事に呆然としながら、渡された紙切れを見た。
そこにはお世辞にも綺麗とは言えない字で、携帯電話の番号とメールアドレスが書かれていた。
恐らく、修二の携帯電話のものなのだろう。
一歌はそれを見ながら、こんなものを常に用意しているのだろうか、と思った。
今の出来事と、渡された紙切れからの修二の印象は「最低に軽い男」だった。