だから、あんなふうな意味不明な言葉を吐く。


あながち、間違った考えではないだろう。


修二に誘われて首を横に振る女なんて、そうはいなだろう。


そう思える魅力が修二にはあった。


一歌自身、修二に普通に「飲みに行かない?」と誘われたら、断るかどうか怪しいものだった。


もしかしたら、彼の魅力にやられ、簡単に「はい」と答えていたかもしれない。


だが、「大恋愛してみない?」なんて誘い方では、まず頷くことはなかった。


普通なら、誰もそんな誘いに乗ったりしない。


言い換えれば、「俺に遊ばれてみない?」と言われているようなものだからだ。


「お、お断りします」


一歌はようやく声を出した。


だが、笹原の後ろには隠れたままだった。


一歌は、誰が首を縦になんて振るものか、と考えていた。


何が悲しくて、遊ばれると分かっていてついていかなくてはならないのだ。


勿論、中にはそれでもいい、という女もいるかもしれない。


だが、生憎一歌はそんな女ではなかった。


それに、一歌は自分に恋愛をしている余裕などないと思っているのだ。


恋愛などというものにかまけている暇があるなら、今の状況から脱する方法を考えたい、というのが一歌の正直な気持ちだった。


そう思って恋愛を手放してからどれくらいが経ったのか、と一歌の頭は別の方向に行きそうになった。


いや、今はそんなことを考えている場合ではない。


一歌は湧いてきた考えを振り払うように頭を振った。


修二はそれを自分を拒んでいる仕草だと勘違いして、深い溜め息をついた。


「ま、そう言わずにさ」


修二は甘い低音を出した。