「は、はいっ?」
一歌はおおよそ歌手とは思えないような、何処から出したのか分からないような声を上げた。
修二の突然の意味不明な言葉に、一歌は何とも言えない気持ちを体験した。
目を丸くするだとか、言葉を失うだとか、そんなどころではない。
しかもここはテレビ局のロビーで、沢山の人が行き交っている。
だが、騒がしい場所であるので、誰も他人の会話など耳にしてはいないだろう。
だからといって、修二のような売れっ子俳優が口にする言葉ではない。
それに何より、一歌と修二は初対面だった。
一歌がこの世界に飛び込んで五年。
会った事のない芸能人は多い。
それはどんなに売れている人でもそうだろう。
ましてや、一歌と修二は同じ芸能人でもジャンルが違う。
会う機会はそうそうないのだ。
いや、もしかしたら、気付いていないだけで、擦れ違ったり程度はあったのかもしれないが、面識はなかった。
それなのに、修二がこんな発言をする意図が一歌には全く分からなかった。
「うちの方針としては、恋愛は自由です。ですが、相手によります」
笹原は修二に自分の名刺を出しながら、きっぱりと言い放った。
「相手としては、不服はないんじゃない?」
修二はそれに対して、あっさりと言い返した。
そういう問題じゃない、と一歌は心の中で思ったが声には出さなかった。
何より、誘うにしても、誘い方というものがある。
一歌の目には、修二は過度の自信過剰な男にしか映らなかった。
どんな言葉でも、女は自分の後をついてくる。