「うん、喋ってる声もいいな」


修二は一人で納得したように頷いた。


そして、顔を一歌にどんどん近付けていく。


一歌は身を仰け反らせながら顔を離した。


「うちの歌手に何の用ですか?」


それを見かねた笹原が、修二の腕を払う。


「マネージャーさん?」


修二はそんな事も気に背せずに、笹原にではなく一歌にそう訊いた。


一歌はすかさず笹原の後ろに隠れ、修二の質問には答えなかった。


この世界はこういうことが多いのは、一歌も勿論知ってはいた。


年配のタレントや、テレビ局の人に誘われる。


売れていない、というのを逆手に取ってくる人もいた。


だが、そういった人には大抵噂があるものだが、修二についてはそんな話を耳にしたことはなかった。


けれど、と一歌は修二の顔を見ながら思った。


これだけ容姿が整っていて、おまけに独身なら、女は選びたい放題なはずだ。


修二は笹原の後ろに隠れる一歌の顔を、ひょこっと覗き込んだ。


年齢の割には可愛らしい仕草で、一歌は驚きを表情に出した。


修二は戸惑う一歌の表情を見て、にっと笑いを浮かべた。


そして、ゆっくりと口を開いた。



「俺と、大恋愛してみない?」



一瞬、修二の言葉の意味が一歌には理解出来なかった。


まるで、日本語ではない言葉を聞いているかのような錯覚を覚える程だ。