一歌は腕を振り払うようにしながら、思い切り振り向き、声を出した。
「誰です……か」
最初は威勢良く出していた声は、相手の姿を目にするなり、途端に弱々しくなった。
一歌の腕を掴んでいたのは、なんとあの浅田修二だったのだ。
「……え?」
一歌は浅田修二の行動に、色々と考えを巡らせた。
もしかしたら、廊下で擦れ違った時にぶつかったのだろうか、や、エレベーターの中で知らないうちに足を踏んでいたかもしれない、と。
だが、すぐにその可能性がないことにも気づいた。
何故なら、今この瞬間まで、このテレビ局で彼を目にしてはいないからだ。
「うん、成る程ね」
修二は一歌の腕を掴んだまま、ぐっと顔を近付けた。
一歌は至近距離にある修二の顔をに思わず戸惑った。
端っことはいえ、一応一歌も芸能人と呼ばれる類だ。
その為、かっこいい人や綺麗な人はそれなりには見慣れていた。
だが、修二はそれ以上に整った顔立ちをしているのだ。
こんがりと焼いたyぷな浅黒い肌に、ふんわりと柔らかそうな長めの髪、少し奥二重の切れ長の瞳、すっと通った鼻筋に、色気を感じさせる唇。
完璧とも思える造りの顔が一歌の目の前にはあるのだ。
それで、動揺するなというほうが無理な話だった。
一歌は動揺しながらも、修二とラブシーンをこなす女優を尊敬した。
一歌のは、こんな顔を目の前にして演技をするなんて、到底考えられる事ではなかった。
「な、何ですかっ?」
一歌は上擦った声で修二に尋ねた。
腕はまだ掴まれたままだ。