バシャ…バシャ…――――
こちらを見たまま尻尾を振る犬に近づく。
すると、引き千切れんばかりに尻尾を振り喜んでいる。
見た所、野生の犬の様だけれど、逃げもせずにその場から動かず私を待っている。
すぐ傍まで近づき、手をかざすと一瞬警戒を示すも…
クンクンと匂いを確かめたかと思えば、甘えるように擦り寄って来る。
その可愛い仕草に、思わず微笑む。
「こんなところで何をしているの?」
頭を撫でながらそう聞けば、当然「キャン」と言う答えが返ってくる。
「お母さんやお父さんはどこ?」
辺りを見渡すけれど、他の動物の気配はない。
野生で育っているのに、人間に懐くなんておかしいわ。
もしかしたら……
「一人ぼっち…なの?」
自分と重なるところがあり、胸が締め付けられる思いでそう口にする。
すると、丸い瞳で不思議そうにこちらを見上げている。
置かれている立場も分かっていない様な純粋な瞳。
その瞳を見つめていると、途端に不安になった。
こんな広い森の中、この子は一人で生きていけるだろうか。
ウィルがこの森は夜になると狼が出ると言っていた。
親なしでこんなに小さくてか弱い命が生き残る確率は低い。