来た!!



たくさんの生徒達が校門を目指して歩いて来る中、一際目立つ、長身の男子生徒。


他の生徒達と比べても頭一つ分くらい大きい彼は、さわやかな秋晴れの日差しに照らされて、髪がキンキラキンに輝いている。



もう!!
やっぱり直してない!!


校門の前に立って、他の生徒達の身体検査をしながらも、私の意識はすでに彼の方に向いてしまってる。



「はい、大丈夫です。行って下さい」



自分で言うのもおかしいけれど、風紀委員らしいキリリとした表情を作りながら、校則に準じていた女生徒を見送る。


そして私はこれから来る天敵と相対すべく、ふうっと大きく深呼吸した。



問題の男子生徒は校則違反の金髪も、アクセサリー類の着用も、まるで気にしていないみたいで、悠然と校門を通り過ぎて、校舎を目指している。


私達、風紀委員なんてまるで目に入っていないみたい……。


身体検査をしているのにそれを受けようという気はさらさらないって感じ……。


しかも校門前にいた風紀委員達はみんな、彼を見て見ぬふりだ。
もう!! あんなに校則違反だらけなのにどうして?


私は他の風紀委員達のように見過ごす事は出来なくて、大声で彼の名前を呼んだ。



「雑賀(さいが)先輩!!」



先輩を呼び止めた事で、途端に回りの空気が変わったのがわかる。


風紀委員だけでなく、それ以外の生徒達もなんだか落ち着きなくざわついてる。


だって、呼び止めないと身体検査できないんだもん。


だからもう一度。


彼の背中を小走りで追いかけながら。





「雑賀先輩!!」



さっきよりも声に力を込めて呼んでみた。


一度目は反応しなかったけど、今度の呼びかけには応じてくれる気になったみたい。


雑賀先輩はくるりとこちらを振り返ると、そのままスタスタと私の目の前までやって来た。



「朝っぱらからでかい声で誰かと思ったら……。お前か、ちま」



雑賀先輩はぐりぐりと押さえつけるように、私の頭を撫でて来た。
不敵な笑いを浮かべて、その行為をとっても楽しんでるみたいに見える。


でも私にとってはとても不愉快な行為だったので、少し乱暴に手を払いのけた。



「やめて下さい!! そんなに押さえつけられたら背が縮んじゃいます」



「は~?」



心底驚いたような声を上げられ、私はキッと先輩を睨みつけた。



「な、何ですか?」



「いやいや、つ~かソレ関係なくね? オレが押さえつけなくても、お前は元から小さいよ?」


半ば呆れたような表情と声のトーン。


その上、目が何だか可哀相な子を見るような嫌~な目つきをしている。
なんて失礼なの!!



「わ、私はそこまで小さくないです!! 雑賀先輩が大きすぎるんですぅ!!」



私は先輩に詰め寄り、彼を見上げた。
私の言った事は大げさじゃない。雑賀先輩は本当に大きすぎると思うの。


だって確か190cm近くあるとかなんとか……。


そんな人に言わせれば、女の子は『小さい』に分類されても仕方がないとは思う。


でも雑賀先輩は……。



「確かにオレはデカいけどね、お前は相当小さいよ? ちま」



「……」



ご丁寧に私だけを『小さい』にカテゴライズして区別してるみたい。
ほんっとに失礼な人!!



「小さくないったら、ないですっ!? それに私は『ちま』じゃありません! 『ちな』です! 遠・藤・千・奈!! 何度言えばわかるんですか!?」



「え~。ちまの方が合ってんだろ~。チビでちまちましてっから」



語尾にマークをつけた可愛らしい素振りの発言は、またしても私の身長を小バカにしたセリフだった。


も~う許せない。
チビだのちっさいだの自分がおっきいからって、人のコト見下して!!
何よ、バカ~!!



「わ、私はチビじゃないもん!! ちまちまだってしてないもん!! 大体先輩は……」



私は思わず大きな声で子供みたいに反論したけれど……。



「はいはい、ストップストッ~プ!」



両手を上げて降参のポーズを取った雑賀先輩に話を遮られてしまった。



「あ~わかったわかった。……つーか、ちま。声デカい」



言って、雑賀先輩は辺りに視線を移す。
つられて私も周りの様子を確認する。


私達、なんだかとっても目立っていたみたい。


身体検査中の風紀委員はもちろん、登校中の生徒達も私達のやり取りを興味深げに見守っていた。



「!!」



は、恥ずかしいっ。


みんなに見られてたと知った途端、体温が一気に上昇して顔が赤くなっていくのが嫌でもわかった。


だけど――――。


もう一人の注目の的である雑賀先輩は、まるで気にしていなくて、むしろこの状況を面白がってるみたい。


ギャラリーの女の子達に手なんか振っている。


呆れて怒る気も失せてしまった。



「先輩といるとロクな目に合わないです」



がっくりと大げさに項垂れて深いため息をつく。


愛嬌を振りまいていた雑賀線先輩は視線を戻し、そんな私の様子に傷ついたような素振りを見せた。