少し不機嫌そうだけど、女の子らしい声。
 
5円くらい別によくね?とか。
 
表情に似合わず可愛い声だなぁ、とか。
 
頭の隅で思った。
 
俺の頭は意外と冷静らしい。
 
でも、身体はなかなかに正直みたいで。
 
口を開けたまま、硬直した。
 
ツナマヨのおっちゃんが、不思議そうに俺を見てる。
 
おっちゃんはきっと、近頃の若もんの考えることは分からん、とか思ってるに違いない。
 
俺も分からん。
 
今の状況がさっぱりだ。
 
そりゃぁ、梅おにぎり持って硬直しますって。
 
喋れないはずの彼女が普通に日常会話をしていて。
 
5円すら気になる程ケチで。
 
当たり前のようにコンビニから出て行く。
 
叫びださなかっただけ偉いよ俺。
 
いや、正確にはびっくりし過ぎて声が出なかっただけなんだけれども。
 
だって彼女喋れないんじゃないの。
 
学校のやつらは一度も彼女の声を聞いたことないんじゃないの。
 
俺の頭の中で、5円玉と共に彼女の声がグルグルと螺旋を描く。