おじさんは、タバコを吸いながら私に話を始めた
「去年、俺が倒れた時さ…アイツにわざと"瞳とはどういう付き合いなんだ?"
って聞いた事があってな…」
いきなり笑い出して私の顔をみる
うわっ悪趣味!
「そしたらさ、"彼女の事放っておけなくて…アイツ見てるとちょっと無理してる様に感じて…気になるんです"
そう言ったんだよ」
初めて聞く話で私はビックリした
「でな?"瞳の事が好きなのか?お前達は付き合ってるのか?"って聞いたら
"恋愛の好き…って言うのじゃないです。知り合ったばかりだし…でも、素直で家族を大切にしている所が凄く好感持てます。
航や僚を見ていると、特にそう感じます"
そう言ってな〜だから、俺はもっと聞いたんだ」
「何故無理してる様に感じるんだ?って問いかけたら
"アイツ弱音吐かないじゃないですか…それで、徹さんが倒れた時大丈夫だって言い張って俺を帰宅させようとするんですが、実際はアイツは全然余裕無くて…
だから、また無理しそうで放って置けないんですよ"
だとさ!
由美子なんか、感動していたぞ?
当時は省吾も自分の気持ちに自覚無かったみたいだけどな…気持ちが決まったのは倉田の一件があってからか?
合宿の頃何かあったか?」
う………………鋭い
でもそんな風に思ってくれていたなんて凄く嬉しい
「まぁ 真面目な奴だけに瞳の指輪を見れば将来の約束なんかしてそうだな〜
ま、俺も由美子も省吾なら安心して任せられると思ってる。
きっと姉さんも同じだよ」
「/////うん ありがとう」
止まった涙がまた流れて
おじさんは飽きれて苦笑いしていた
車中では昔話をしたりこれから先の事なんかも沢山話をした
そういえば、おじさんと二人でゆっくり話す事なんて暫く無かった
私がこうして高校を卒業し、警察官を目指す事ができたのは大学卒業したてのおじさんが私を引き取ってくれたから………
そして、私がいる事を受け入れ自分の子供として育ててくれた由美子さんのお陰
省吾さんと約束した事を今伝えたい………
警察学校の校門を抜け駐車場に車を止めた時
私はおじさんに向かって一礼し、今まで育ててくれた事をゆっくりと心を込めて感謝の気持ちを伝えた
おじさんは頷きながら
そっと目頭を押さえた
永遠の別れじゃないけど
どうしても伝えたかった
「外出許可が下りたら一度は帰りたいと思ってる…
ちゃんと卒業して夢を叶えたいと思うよ 頑張るね!」
私は精一杯の笑顔で駐車場でおじさんとお別れをした
次に会うのは入校式……
私は期待と不安を胸に校舎の前に立った
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◆瞳side
玄関先で入口を探していると制服を着た人に声をかけられた
「君! 前泊入校する子だね?
こっちに来て受付を済ませなさい」
「は はいっ!」
よく見ると私がいたのは職員用の入口だったみたくて制服の男の人について行った
学生用の入口に入ると中には私と同じ様に大きな荷物を持った人が何人かいた
本来明日の入校だけど、私の様に遠方の者は前日入校の許可をもらえて私は一日早く手続きをする事になった
「あそこが受付だから、列んで…後、事前に郵送している書類もここで提出してもらうから用意しなさい」
「はい。ありがとうございます」
男の人ばかりで幾分緊張しながら、私は案内をしてくれた男の人に御礼を言った
受付に列び順番を待った
初めて入る学校はとても緊張した
廊下の壁に貼られているポスターや掲示物を見て
改めて自分が今何処にいるのかを自覚する
制服姿の人が私達を見ているせいか誰一人話す者はいなかった
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「名前は?」
「佐久間 瞳です」
「じゃ、書類提出して」
事務的なやり取りが続く
…………
「以上で、受付終わりです。こちらの用紙に部屋割が書いてあります。
これから部屋に移動し、一旦荷物を置いてから制服の確認を行いますので、ここの会議室に来てください。」
色々な事を一度に色々言われたけれど、私は説明をメモしながら指示通りに女子寮へと向かった
けれど
「おいっ!どこに行くんだ!君は説明をちゃんと聞いていたのか!!」
えーーーーー私?
驚いて立ち止まり振り返ると
荷物を持ったまま会議室に向かおうとしていた男の人が教官と思われる制服姿の男性に呼び止められていた
彼は注意を受けているにも関わらず薄ら笑いを浮かべている
"すいません"ではなく
「あーどうも」とか言っている
有り得ない!!
受付を待つ学生は皆一瞬で凍りつく
でも受付する職員は淡々と作業をしていて、辺りは妙な空気になった
教官は
「君の名前は?」
「あ、俺 平岡です。平岡耕平って言います」
…………………
私は呆れてしまった
目上の人に対する態度じゃない
あんな人と同じクラスとかなったら最悪だよね
私は係わり合いたくなくてさっさと寮に向かった
女子寮に向かうと廊下で女性職員が待っていた
「こんにちは」
「お世話になります。佐久間と申します」
「部屋は3階ね、この階段から上がって右側よ」
私は先輩の後ろについて部屋に向かった
寮内で見かける学生達は、先輩によると私達よりも先に入校している学生の様だった
すれ違う人皆に会釈をしながら割り当てられた部屋に入った
今日、前泊入校するのは約30名
他の短期入校の大卒の人と私達と同じ長期入校の高卒は明日一緒に入校する
卒業時期は違うけれど、同じ新人だ…
通された部屋は4人部屋
快適とは言えないが、プライベート空間等無い部屋だった
荷物を置くと直ぐに私は先程の会議室に向かった
……………
……
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会議室では、男女一緒に制服の確認やこれからの流れを大まかに説明を受けた
そこでは私の他に女子が3名いて少しホッとした
会議室では明日もう一度詳しく説明をする…と、前置きをしながらここでの生活・規律を受付で貰った資料を元に教官が話をした
ここで一番印象に残ったのはやはり携帯電話は没収され卒業までの10ヶ月は教官が預かると言う事と
外出が認められるのは、休日の土日祝日のみで、入校3ヶ月目から可能となり、しかも土曜日の夜点呼が取られると言う事だった
つまり、金曜の夜外出して日曜日に学校に帰るなんて事は有り得ない事らしい
ただし、年末年始に実家へ帰省する事は可能らしいけど…
省吾さんと次に会えるのはいつなんだろう
覚悟した事だけど、かなり辛い
でも一番驚いたのは
ここでも定期テストがあり、赤点まであると言う事
本当に大変そうだ…
私は田崎さんから聞いていた話が決して大袈裟に言っていた訳では無かったんだと思った
……………
夕飯までの時間私達は部屋で荷物を片付けながら待つ事になった
偶然にも会議室で一緒になった子は皆同じ部屋でお互いにホッとした……
どの子も遠方からの子で何となく気が合いそう
県外から来た田所加奈
彼女は白バイ隊に憧れて警察官になったらしい
幼なじみの彼氏がいるそうで、彼女も私と同じく遠距離恋愛中
佐々木晴香
高校時代は弓道部主将
彼女は家族皆警察官らしい
私達の中では一番しっかりしている
彼氏はこれから警察官限定で探すらしい
そして一番気が合いそうな工藤絵里香
彼女は高校時代剣道をしていて、彼女には社会人の彼氏がいるらしい
私達は夜遅くまでお互いの事を話した
これからの10ヶ月一緒に頑張ろうと誓いあった