コイツは昔から言葉が足りなくて誤解されやすい所があったけれど、なんか今回はヤバイんじゃないかって思った
「………喧嘩でもしたのか?」
首を力無く左右に振る省吾に健太が追い撃ちをかける
「やっぱ遠距離で、オマケに学生と社会人では格差感じるか?」
おぃおぃ 健太も酔っ払っているからマジで直球投げて俺は正直慌てた
でも……気になる マジでそれが原因な訳?
「なぁ 省吾、健太の言う事あんま気にすんなよ コイツ酔っ払ってるしな!
瞳ちゃんと連絡取ってねーの?」
「………マジ……もう無理かも」
「ちょっと!話し聞かせろ!恋愛マスターの俺様が相談に乗ってやる!」
そんな事を言ってみたけれど、省吾の暗い表情を見て正直俺は動揺した
お前達はスゲー試練何度も乗り越えて一緒になったんだろーが!
なんだよ…………
「………いやっ……
俺が悪いんだよ。瞳だって俺にただ話しを聞いて欲しかっただけで、意見を求めていた訳じゃないのに
つい キツイ事言ってしまって……はぁぁ」
「省吾、何て言ったんだよ」
落ち込む省吾に根気よく話しをさせてわかった事は、瞳ちゃんが駐禁の取り締まりをしていた際、相手側に相当嫌みを言われその事で上司から注意をされたらしい
指導自体は彼女も納得できているけれど、体力的にも精神的にも辛い現状でこの先やって行けるか不安に感じていた様で
弱音を吐く彼女に省吾はハッパをかけたらしい
剣道部主将だった彼女なら、直に馴れると思っての事だった
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「俺は……瞳に『まだ3ヶ月しか経ってないんだから、仕方ないだろう?皆そうやって経験積んでるんだし……』って言ったらアイツ
『もうイイッ!!』って言い出して…………」
…………なるほどね
なんでそこで彼女を甘やかしてやれねーかな
生真面目な省吾だから、そうなったのか
全く不器用な男
俺は目の前でやけ酒飲んでいる省吾を見てため息をついた
「省吾、ちょっと頭冷やすつもりで距離置けや」
俺の思いがけない一言に驚く省吾は
「え?……いや………
いいんだろうか………
アイツ一人で苦しんでいるんじゃないかな
俺が瞳を追い詰めていたら………」
「お前が言ったんだろ距離置こうって
それに正直俺達も就活やら模試やらで忙しいし
バイトだってあるんだし
ちょっと俺にも良い考えあるし」
久しぶりに田崎さんにも会いたいし
-----来週彼女連れて行ってくるか
不思議がる省吾
でも決めたもんね
…………
…………………
…………
……
でも
まさか
こんなに話が複雑に絡まるなんてこの時は思ってもみなかった
どうしよ 俺
◆瞳side
『もういい!』
ガチャン!!
ツーツーツーツー
持っていた電話の子機を握り締めたまま瞳は呆然としていた
突き放された気持ちになって
悲しくて
思わず切ってしまった
--------でも
切ってしまってから、少し冷静になった頭で考える
マズイよね
最近の電話が仕事の愚痴ばかりになっていた事は私もちょっと気にしていたんだ
省吾に話をした所で解決なんかしやしないってわかっていたのに
つい
つい 甘えて………
どうしよう
どうしよう!!
その夜は今までで一番落ち込んだ
頭の中で省吾が言った事
私が言った事
何度も何度も思い返し
その度に
だって!
とか
言わなきゃ良かった
とか
後悔したり頭にきたり
自分の気持ちがグルグル回って寝ることができなかった
朝になってクローゼットの横に置いていたバックを見てまた落ち込む
そう………
来週から3ヶ月また学校に入る
喧嘩したままでこのまま入校したら、仲直りするきっかけが無くなる
寝不足でボーッとした頭で洗面所に向かい、鏡に映る寝不足の酷い顔
「馬鹿だな…私」
冷たい水で顔を洗いウジウジしないで省吾に電話しよう
そんな風に自分に気合いを入れた
ここ最近の休日は、掃除や洗濯をして食料品を買い物に行くだけの寂しい時間を過ごしていた
当直明けはグッタリで、風呂に入るのも面倒な時がある
仕事は辛い事ばかりじゃないけれど、正直"こんな事も警察の仕事なの?"って事もあって……
何だか釈然としない気持ちを抱えて勤務した事もあった
私が未熟者だからそう思うんだろうけれど
先輩の仕事振りを見ていると、どんな突発的な事にも怯まず冷静で判断が早い
そんな人に自分はなれるだろうか……
3ヶ月の初任科職場実習を終え来週再会する同期の中で自分が1番成長できていないんじゃないか……
そんな不安がここ数日心を占めていた
省吾に連絡する前に入校準備を整えないと……
私は入校中の着替えを買いに久しぶりに駅前の繁華街に出掛ける事にした
平日の昼間と言う事もあり、店は比較的空いていて
久しぶりにのんびり歩く事ができた
ふと目に留まった雑貨屋の前で小物を見ていると
可愛らしいボディソープや輸入化粧品を見つけ
気持ちが少し明るくなった
普段化粧を余りしない私も、この前先輩に化粧をして日焼け対策しないと後から困るよ
と、言われていた事を思い出し基礎化粧品を物色していたら
「さ〜くま」
突然声をかけられ驚いて振り向くとそこには普段着の田崎さんが立っていた
ガサツな私が女の子らしいお店に居るのを見られ思わず恥ずかしくなって挨拶もそこそこに
「ビックリしました。」
早くこの場を去りたい私がそんな風に答えると
すかさず私の手元に視線を落としニンマリした表情を浮かべ
「ちょっと顔かせや。早く金払ってこい」
そう言ってサッサと近くのベンチに向かって歩き出した
もっとお店を見たかったのに、先輩の命令じゃあ拒否できない
私は渋々レジを済ませ店を出た
ベンチに座る田崎さんは、ジーンズにポロシャツと言う特別オシャレな格好をしている訳でも無いのに嫌味な程の長い足を組み
ゆったりとタバコを吸っている姿は正直格好良い
けれど
何の話をされるのかビビっている私には、憂鬱で仕方ない
思わず深い溜息を吐いてユックリとベンチに足を向けた
-------「お待たせしました」
「おー」
と、返事をして先輩は自分の隣を指差し"座れ"と合図した
「………今日は省吾一緒じゃねーの?」
いきなり省吾の名前が出て思わずビクッとしたら、すかさず先輩は眉をピクッとさせた
「今日は平日だし、入校前に準備もあるので約束はしてないです」
ふ〜ん
と、返事をしながら田崎さんは吸っていたタバコを灰皿に捨てた
「入校したら暫く会えないのに会う約束してないなんて、お前ら上手くいってねーの?」
真っすぐ視線を向けられその視線がとても痛かった
「………………」
「………………」
何て答えよう
「あの………」
「ま、お前達は少し喧嘩も良いかもな。学生同士の恋愛とは違って当たり前だし」
「喧嘩が良いなんて…」
「愚痴や本音が言える位自分をさらけ出す事が出来る様になってきたんだろ?」
「…………」
「で、原因は?なかなか会えないからか?」
「違います」
こんな所で話して良いのだろうか
ちょっと困って俯いていると