ヴァンパイアノ想イビト






『いつか…真梨子を迎えに行くから…。真梨子は俺のい……けだから。 』



『いやだっ!!真梨も連れてって!』



『じゃあな…真梨子…。』



『いやぁっ!……かないでっ!!』


血を吸う魔物は幼き少女に誓いをたてた。

『いつか必ず真梨子を迎えにいくから……待っててくれ。』


――バサバサッ……‥・
誓いをたてた魔物は大きな灰色の翼をはためかせ、どす黒い空へと旅立っていった。



『ぜったい…絶対迎えに来てね………うちゃん。』

そう一人であの人が旅立っていった空に向かって呟いていた。





『真梨…迎えにきたよ。』


――貴方は誰?



『迎えにきたよ…』


――アナタハダァレ?

次の瞬間――…

――ガシッ!!


「いイヤァァァァッ!!」



――ガバッ……

「ハァ……ハァ……ハァ……。ハハッ…なんだ、ただの夢じゃない。」


――どどどどど…

「ん…?」


――バァンッッッ!!!!!

「どうした!」


「お…お兄様………。」


お兄様はホッとしたような顔をして優しく声をかけてくれた。
「…なんだ…また、あの夢?」


「………はい……。」
私は涙をこらえ、喉の奥から声を絞り出した。


「………独りで寝れる?」




――フルフル…

私は頭を小さく振った…。


「…」


「また……横で寝て?」


「フッ……いいよ、でもちゃんと寝れる?」


「お兄様の…隣でなら…。」





ただただ時計の秒針がなるおの沈黙の中、私はお兄様の隣で寝られずにいた。



――チッチッチッ…


私はその沈黙にいてもたってもいられず、その沈黙を切り裂いた。

「…お兄様……。」



「……なんだ?真梨子。」



「やっぱり………怖いの…。」



「大丈夫、僕がついてるよ。」



「………ありがとう…お兄様。」


…やっぱり、安心するな…お兄様の隣。

私がおねだりすればいつでも甘えさせてくれる。

私はそんなお兄様が大好き。


「おやすみ……なさ…い。」


「おやすみ、真梨子。」


私はお兄様の黒い髪に頬を擦り寄せながら深い眠りについていった――…。




* * * * * * * * * *


「姫は……まだ見つからないのか…。」



「申し訳ございませぬ…しかしながら、例の辺りにいることは間違いありませぬようで…」



「やはりそうか…。」

真梨子…早く会いたい……。
昔の願いを…早く…一刻も早く…叶えてやりたい。


* * * * * * * * * *





……眩しい………

朝…かな……。



「………こ…」



「んん………」



「……りこ…」



「ぇ……」



「真梨子…起きなさい。」



「お、お兄様…?」



「寝起きの悪い子だね…。」



――パサッ…


お兄様が布団をめくる。



「起きなさい、遅刻するよ。」



「え…!?もうこんな時間なの…。」



「だから僕がこうやって起こしているんだよ…?」



「ご…ごめんなさい…お兄様。」



「分かったならいいよ、早く着替えておいで。」



「朝食は相崎さんが作ってくださったから。」



「はい。」


相崎さんというのは、うちの家政婦さん。
もう50代とは思えないぐらいきれいな人なの…。


――――…



「行ってきます、相崎さん。」



「行ってらっしゃいませ。」
ニッコリと私とお兄様を見送ってくださる相崎さん。


「じゃあ、行こうか。真梨。」



「はい、お兄様。」


お兄様はちょっとしたことだけれど、私のことは家でしか“真梨子”と呼ばない。
家以外では“真梨”と呼んでいる。
なぜなのかな…?
双子だからかな…?


「どうしたんだい…?」



「あ…いや、なんでも。」





――――…




「真梨子おはよ~♪」



「零、おはよう。」



「いつ見ても真梨子って可愛いよね~♪」



「それ言うなら自分のことじゃないの~?」


あ、私実は学校では性格作ってるの。
【それをおっしゃるならご自分のことじゃなくって?】なんて言ったら変に思われるでしょ?
まぁ、この桜宮学園にはそんな人の集まりのようなものだけれどね。
まぁ、親友には性格作らなくっても敬語は使わないけれど…。



―キーンコーンカーンコーン…

「やだ、予鈴なってる!」



「速く席着かなくっちゃ、島田先生怖いよ~…」



「だね…」


あ、島田先生というのは私たち3-Cの担任の人なの。


しばらく席で待っていると…



―ガラッ……





えっ…?







「「「「「えぇっ!?」」」」」



「みなさん初めまして。」



なんと入ってきたのは…。



「兼崎渉です。」


美形の男の人。
さらさらとした髪に、スラッとしている体。


モテるな、この人…


……



あれ?







この人どこかであったような…








どこだろう?





…会ったことあったような……





――――――放課後…


なんでも、担任の島田先生が車にはねられたらしく、異例だが…。
ということらしい。



「はぁ…」


今私がため息をついているのはなぜかというと…



「なんで私が先生に呼ばれなきゃいけないのよ…」


そう終礼の時…


『あぁ、そうそう…井上さんはあとで職員室まできてください。』



なんで私が…
そう思いながらテクテクと重い足取りを職員室まで運んでいく私であった。


―ガラッ


「失礼します、兼崎先生はいらっしゃ…!?」



「動くんじゃねえぞ!?」

私は後ろから首の辺りを腕でつかまれ、ナイフを突きつけられた。

何!?
何なのこの人!?

いや…怖い……誰か………誰か助けて。



私を羽交い締めにした男は職員室にいる先生達に向かってこう叫んだ。

「てめぇら、この嬢ちゃんがどうなってもいいのか?嫌だったら金目のもん出せやっ!!」



「「「「えっ!?」」」」



「さっさと出せっ!出さなかったら…」



「――……ッ!」


鈍い痛みが首筋に走った。
そして生温かい何かが出てきているのが分かった。



[この血の香りは…!?もしや……!!]



「おらぁ!さっさと「私の生徒にそのようなマネをされては困ります。」


え…兼崎先生!?




「なんだてめぇっ!?殺してもいいのか!?この嬢ちゃんをよぉっ!?」



「い………やぁっ!!」


男はさらに首に傷をつけてきた。


このままじゃ本当に殺されちゃう…!
助けてよ……兼崎先生…助けてっ!!



――ドッ…


「え?」



「…っったく…手間かけさせやがって…おとなしく捕まってりゃよかったものを。」



そこには男を気絶させ私の肩に手を置いていた兼崎先生がいた。



「か…兼崎先生…」
「ん…なんだ?」



「ありがとう…ござい…ました……。」



「それよりお前大丈夫か?」



「は、はい………いッ…!?」


また鋭い痛みが首筋に走った。



「嘘つけ。痛いんだろう?ちょっとこっち来い。」



「は…はい。」



先生が連れてきたのは体育館裏の倉庫。




「先生…?~…ッ!?」


なんでこんなところに…と聞こうとすると私が追ったさっきの傷のところに舌を這わせていた。
まるで血を欲するヴァンパイアのように…。


「ん…やぁ……いた…ぃ…」



「辛抱しろ…すぐ治してやるから…」



――ピチャッ…ピチャ………


「ハァ……ハァ…」


先生が這わすのを止めると…


傷が治ってる!?


うそ……



「大丈夫か…?」



「大丈夫、です…。」



「そうか……じゃあもう今日は帰れ。お前の親にも一応知らせておくから…」



「親は………いません。」



「え………?」


「私の両親は………18年前に死にました。」


そう…あの激しい雪の降る夜に……。

お父様と………お母様は……
私たちを守ってくださるために………。




「……悪いこと言ってしまったようだな……。」



「伝えるのであればお兄様に………ッ!」

目眩が…


「おい!!大丈夫か!?」



「遥お兄様…に……」




私は兼崎先生に体を預け、意識を手放した。


―――――





「……こ……」



「ん…」



「真梨子、大丈夫か!?」



「ん………?お…お兄様…?」



「ハァ―…真梨子が倒れたと聞いたときは血が凍り付いたかと思ったよ…。」



「ご…ごめんなさい。」



「しかも…不審者に首切られたって聞いたけど…傷はないみたいだね?」



「へ…?嘘………。」



「ほら見てごらん。」

お兄様は私に手鏡を差し出した。



「………。」

本当だ…でもなぜ?
二度も切られたはずなのに……。