「ハッ…何て無邪気な顔してんだよ。」

彼は、少女の横顔をチラッと見ながら小さな声でぼやいた。
けれど彼の声は、少女の耳に入ることなく周りの騒音にのみ込まれていった。
彼は、ふっと微笑んだ。

「ったく…馬鹿か俺は……」

彼はそう呟いて、空を見上げた。
周辺は屋台の灯りで明るいが、空の上はもう真っ暗だった。

その時、
‘ドンッドンッドンッドンッ!!’
と先の方から、急に太鼓の音がした。
少女は、その音に驚いて、持っていた食べかけのリンゴ飴を地面に落としてしまった。

「あぁぁぁ…!!!!」

少女は、すかさずしゃがみこみ、落ちてしまったリンゴ飴を拾い上げた。

「もったいないなぁ…。」

そう言いながらも、少女は惜しそうな表情をして、前を通った違うリンゴ飴の売っている店の前に縛られていたゴミ袋の中へ食べかけのリンゴ飴を捨てた。