会社へ速く行き、夜の十時までぶっとうしで、休憩もとらずに仕事をした。
彼に好意をもっている女社員達が、何度も何度も社長室を訪れては、彼に気に入ってもらえるように、お茶を持ってきたり、彼を誉めたてたりして気遣っていた。

けれど、彼は全く相手にしなかった。

仕事をやっていたけれど、頭の中は何も考えていなかった。まさに‘無’と言った状態だった。

時計が十時ちょうどになると、彼はスクッと立ち上がり、書類をまとめて机の引き出しにしまい、上着を着てカバンを持ち、社長室を出た。

「お疲れ様でした!」

と社員達が、立ち上がってお辞儀をするが、彼は無表情で何も言わずに通りすぎて行った。