――――…
いつものように、学校が終わり……
クラスメイトたちの顔はどこか浮いている。
『今日カラオケ行かない!?』
『俺、部活~』
『俺もバイトあるわっ』
人それぞれ……
どう時間を過ごすかは違うけど、
流れてる時間はみんな一緒。
なんだか不思議。
そして、あたしはまっすぐ家に帰る。
もう迎えに来てるだろうし。
なんてつまらない毎日なのかしら。
あたしもカラオケ、
行ってみたい。
…無理に等しいことは考えないほうがいいか。
そんなこと、思うのはよそう。
でも、なんであたしだけ、
こんなにも窮屈なんだろう?
神様は、意地悪だわ。
『超気持ちいいんだってぇ』
ふっと彼女たちの会話が頭をよぎる。
あたしの頭の中はまた、
そのことでいっぱいになってしまった。
…知りたい。
それが知れれば、
毎日窮屈でもいい。
…でも、誰と?
彼氏なんかいないし、
関わりのある男の人も……
一人しかいない。
自問自答を何回か繰り返してでてきた答え。
……アイツしかいないよね。
もやもやと頭の中で作り出された顔は、
いやらしい笑みを浮かべているアイツ。
ちょっとプライドが許せないけど、
聞いてみようかしら。
「はぁ」
ひとつため息をついて、
席を立ち、校門へと足を向ける。
すごい憂鬱。
寂れた街を覆う空は、あたしの心と同じように浮かない顔をしていた。
「お帰りなさい、樹里お嬢様」
スラッとした容姿。
その顔は、まるで人形のように綺麗で…
綺麗すぎて怖い。
黒い髪をオールバック。
伏せた長い睫毛は、女の人みたい。
妖艶に孤を描く口元。
"容姿端麗"
この言葉は、彼のためにあるようなものだと思う。
この完璧主義な男は、あたしの執事。
永島 優。
手違いで、やとってしまったヤツなんだけど。
使えるから今でも置いている。
「今日は部屋で読書でもするわ。紅茶をお願い」
「御意」
にんまりと厭らしい笑みを浮かべる優に、
鞄を渡し部屋に向かう。
いつ言おうかしら?
そんなことを想いながら、本棚から適当に本を取り、ベッドに横になって読み始めたものの
……内容が、頭に入ってこない。
パタンと本を閉じて、枕に顔をうずめる。
はぁ……
もうなんなんだろう。
なんでこんなに気になるんだろう?
トントンッ
心地いい音が部屋に鳴り響く。
優が来たみたいだ。
「どうぞ」
「失礼します」
優は紅茶のいい香りとともに、部屋に入ってきた。
この匂いは……
ダージリンね。
「ダージリンをお淹れしました。添えて、マカロンもお召し上がりください」
コトンと小さな音を立てて、テーブルに置かれる。
マカロンか……
ケーキのほうが食べたかったけど、
ま、我慢しますか。
ピンク色をした可愛いらしいマカロンを口にもっていく。
広がるふんわりとしたしつこくない甘さ。
やっぱり、アフタヌーンティーは好き。
一通り手を付け、紅茶を飲み干す。
「おかわりはどうなさいます?」
ドキッ
優の妖艶な笑みが視界いっぱいに広がる。
妖艶な口元
色っぽい目
陶器のような綺麗な肌
あたし………
なんで優にドキドキなんかしてるの?
五月蝿いくらいに音を立てる心臓。
無視して、優を見つめる。
ひとつ深呼吸
そんなことより、
「聞きたいことがあるんだけど」
今は、あの疑問の方が先ね。
「聞きたいこと…ですか?」
優は顔をしかめながら、
『分かる範囲ならなんなりと』
と笑みを浮かべる。
言葉をつむぐように、ゆっくり…
静かに言った。
「あたしを抱いてほしいの。快感を教えて」
自分がどれだけ恥ずかしいことを言ってるか分かってる。
だからこそ、こんなにも顔が熱い。
優を見るのが恥ずかしくて、目線をそらす。
「………っ!!」
反転した視界。
意地悪そうに笑う優。
いつもは後ろにある前髪が、
顔にかかっていて何ともいやらしい。
心臓は今まで以上にバクバクと鳴り響く。
「御意」