恋の始まりなんて



聞かれても



分かんないよ。





何が好きって



言われても




答えられないよ。





好きの理由なんて




後から付け加えたように




話してるだけだよ。

















「…好きです。」





高2の冬


私は募る想いを


先生に打ち明けました。




放課後の化学準備室。

机の椅子に腰掛けた三浦一樹(ミウラ カズキ)先生がクルリと椅子を回す。




化学の授業の後だったらしく


白衣姿のまま


三浦先生は、私を遠い目で見る。





ガタン、と席を立つと



ドアの前にいる私の前へ立つ。




三浦先生:「杉野、そういうのはよしてくれ。…今日はもう帰りなさい。」



三浦先生はカチャッと部屋のドアを開けて、帰るように促す。



「…。」



ペコッと頭を下げて廊下に出る。




パタンと虚しく扉は閉じられ、ズキンと心臓が音を立てた。
























ヤヨッチャン:「みっこ!!」



夕暮れの教室で大親友の

【牧野 弥生 (マキノ ヤヨイ)
 通称: ヤヨッちゃん】

が、私

【杉野 巫 (スギノ ミコ)
 通称: ミッちゃん、みっこ】

を心配して待っててくれた。


ヤヨッちゃんは、私が三浦先生に恋してることも全て知っている。


ガタンと席を立つと私の元へ駆け寄るヤヨッちゃん。


ヤヨッチャン:「…やっぱり、難しいよ、三浦先生は…。」



ポンッとヤヨッちゃんの手が私の肩に乗る。


私の暗い表情を見て、察したようにそう言うヤヨッちゃん。



その言葉にポロポロと涙が溢れ出す。



「何で、好きになっちゃったのかな、私…―っ。」



ガラッ―…



高木先生:「ん!?お前らまだ残ってたのか!?」



そう言っていきなり入ってきたのは
担任の高木 恭(タカギ キョウ)先生。



ヤヨッチャン:「今から帰る所でーす!行こ、みっこ!」



涙を袖で拭いていた腕を、ヤヨッちゃんが引っ張る。



「…うん。」


ヤヨッチャン:「では、失礼しま〜す!」



高木先生:「…?ん、おお!またな。」



泣いてた私に気付いたのか高木先生は少し頭を傾けてそう返事した。









三浦一樹先生 Side





化学準備室の椅子にもたれながら、オレンジ色に染まる空を眺めていた。




"吉崎"が卒業してから、もう3年経ったのか…。




俺は、もうとっくにその存在を、思い出にしているはずなのに。




誰を見ても、"吉崎"の面影を探してしまうのは―…何故?





コンコン―…ガチャッ



不意にドアが開き、入って来たのは高木恭先生。



同じ理系担当教師で年は俺の2つ上。



黒髪で、体育会系の教師っぽいが数学を専門としている。



俺は化学。


高木先生:「すいません三浦先生、2年の化学のプリントって持ってます?」


「…、えーっと、あ、調度ここにあります。」


そう言ってノートパソコンの隣に置いておいたプリントの束を高木先生に渡す。


高木先生:「ありがとうございます!…それにしても、理系の教師が増えて良かったですよね!」


「…本当に。ここ3年で幾分楽になりました。」


3年前は、本当に大変だった。


この学校にほとんど理系の先生がいなかったため、仕事が多く少しの余裕もなかった。




「…"吉崎"は元気ですか?」











そう尋ねると、嬉しそうな表情を浮かべる高木先生。


本当に、分かりやすい人だ。



"吉崎 奈緒"(ヨシザキ ナオ)…



ここの卒業生でもあり、忘れられない人でもある。



俺の授業をいつも真面目に聞いてくれる生徒で


俺の所に、化学を聞きに来る唯一の生徒だった。


他の生徒は、化学すら興味を持たずに、聞かれるのは個人情報ばかりだ。


いつでも真剣に…
あの表情が今でも忘れられない。


そんな吉崎が高木先生に恋をしていたことも


二人が両想いであることも


等に気付いていた。



案外忘れられないのは、高木先生の影響があるのかもしれない。



もう3年経つというのに…。



吉崎とは恋人同士だと、高木先生から聞いた。


そうだろうな、とは思っていたが…心臓にぐっさり矢が刺さったような、そんなままなんだずっと。



高木先生:「5、6月くらいから…、教育実習にここに来るそうなんですよね!」



はははっと高木先生は笑って凄く嬉しそうだ。



「へぇ…。じゃあ、俺は吉崎に久しぶりに会えるんですね。」


高木先生:「あ、三浦先生!奈緒に手ぇ出さないで下さいよ?」













「ええ。」


そんな高木先生に、思わずクスッと笑って、返事をする。


高木先生:「あ!俺、結構本気で言ったんですけどね…。」


そう言って高木先生は笑って化学準備室のドアノブに手を掛け
「じゃあ、また。」と言って出て行った。




"奈緒"、か。




スッと窓の外に体を向けて景色を見た。




今も心に残る大きな影。






俺は…





君を早く思い出にしたいよ。











杉野巫 Side



告白して、沢山泣いて


それでも諦めきれない私は



心に「それでも頑張るぞ」っと強く決めた。




そんな数学の時間。



私はパラリ、パラリと
ピンク色の本のページをめくる。



ヤヨッチャン:「みっこ!それ、何!?」


コソッと隣の席のヤヨッちゃんが話し掛けてくる。


「"恋愛攻略本"!!」


キラリと目を光らせて言う私にヤヨッチャンが笑い出す。



ヤヨッチャン:「あはは!みっこ!めげないね!頑張れ!」


高木先生:「こら!お前ら!今は授業中!ん?杉野!何読んでんだ?」


ヤヨッチャンの笑い声に、高木先生がこっちに来て、私の本を見付けた。


慌てて、バサバサと本を引き出しに入れて苦笑いを浮かべて高木先生を見る。


そんな私に高木先生は「ちゃんと問題やれよ!」と言って教卓へ戻った。



今日は三浦先生の授業がない日。


会いたいな。
でも、会いずらい…。
でも、…会いたい。



ふと、さっきの本の内容を思い出す。



…恋は積極的に…。押して押して引く作戦だっ!!


グッと拳を握る私を、クスクスと笑うヤヨッチャンにムッとして睨む。