「おい…。」


この呼び方にも
慣れてきた。


少し顔を上げて、
立っている
坂口君を
見上げる。





その時、


ふと
腕が伸びてきた。


ゆっくりと、
けれどまっすぐ、


力は
抜いているけれど、

上に向けられた
手の甲が、



私の顎の下に
そっと
差し入れられた。



息が
止まったかと
思った。




そのまま指先だけ
くいっと動かし、


私の顎を

上に持ち上げた。



坂口君の顔が
まっすぐに
見えた。



「な、な、何?!」



動揺する。



「…顔上げろよ。」



何?!

ちょっと
何なの?!



「へこんでないなら、顔あげろよ。」



真っ赤になった
私の顔に
そう言うと、

手を顎からはずし、

ゆっくりと
廊下の外へと
出て行って
しまった。