教室に戻っても、
まだ先生は
いなかった。


それどころか、
みんな席にすら
着いていない。


自分の席に戻り、
形だけ机に
ノートを出す。


「忘れてた。」


ふと声が聞こえ
顔をあげる。


「ん。」


立ったまま
坂口君が

今日の昼までの
授業のノートを
差し出してきた。


「え?」

「今日の分。」

「い、いいの?」

「何が。」

「また借りていいの?」

「…治るまで貸す予定だったけど。」

「本当に…?」

「嫌なら別に…。」


ノートを
引っ込めようと
差し出されていた
手が動き出す。


「ち、違うよ!!ありがとう。すっごい助かる!!」


必死で
ノートに向かって
手を伸ばす。


「いや、無理して借りなくてもいいし。」


すっとノートを
自分の机に
片付けてしまった。




しまった…。




よくわからないけど、
坂口君のノートを
自分から
手放してしまった。


あれだけ
手放したくないと
思っていたのに。


わがままが
ばれちゃったのかな。

私の邪な思いに
気付かれちゃったのかな。



押し寄せる
後悔の念。




俯く。




そして、

額から一筋

硬く冷たい

汗が流れた。