「ああ。」


忘れていたのか、
思い出したように
自分のノートを
受け取る。


「眠そうだね。大丈夫?」


長いまつげに
見とれながら
問いかけてみた。


「ああ。」


黒い瞳が
自分に向けられた。

焦る。


「…昨日、マジで手書きで写したのか…?」


顔と目だけ
上げた状態で
聞いてきた。


「う、うん。」


頑張った。


昨日深夜まで
かかったけど、
右手で、
書き写した。


途中で、

コピーをして
それを持って帰って
写せばいい
という事に、

気づいた事は
内緒にしてしまう。


「慣れないから、ノートすごく汚いけどね。」


内緒にしている事は、
坂口君への迷惑。

そして私の
わがまま。

それに気づいて
いるのに、
何も言わない自分が
何だか可笑しかった。


言いながら
笑ってしまう。


「…よく笑うな。」


坂口君が
ポロリと口にした。



その時は
あまり何も
思わなかった。


けど、今考えると、
すごく恥ずかしい。



坂口君の目に
うつった私の笑顔は

どんな笑顔
だったんだろう。


特別な笑顔だって
ばれちゃった?

それとも
よく笑う変な子
だと思った?


好きな人といると
自然に笑顔が
こぼれる…。


彩夏の言った言葉が
身にしみる。


恥ずかしい。

けど、
別に嫌ではない。





チャイムと同時に
私と彩夏は
教室に戻るために
走り出す。



彩夏の大西君に
向ける笑顔が
ふっと思い浮かぶ。



私が坂口君に
向けている
笑顔も

あんな笑顔だったら
いいのにな。


教室へと走りながら
彩夏の後ろで
そんな事を
思った。