ご飯を食べながら、

小林梓の話で
盛り上がる。


「坂口君とたまに朝一緒に来るよね?あれ、どうなんだろ?もう付き合ってるのかなー。」

「いや、違うでしょ。」

「なんでそう言い切れるの?」

「だって、坂口君、笑ってないじゃん。」



ずくっ…。



久しぶりに
縫った指先が
疼いた。


「笑ってない…。」


口に出してみた。


「そうだよ。普通、好きな人と一緒にいたら自然に笑えるものなんだよ。どんなに不器用な人でもね。」


最後の一切れの
卵焼きを口に
ほうばり、

お弁当箱を
片付けながら、
こちらに
視線を移す。


「そりゃー、私も裕子も好きでもない人に笑ったりするし、普通の友達にも笑うけどさ。なんていうか、本当に好きな人には、特別な笑顔が出る気がするんだよね。…それが坂口君から、小林梓に対しては無い気がする。」


そうなの?

じゃあ、
私があの時見た
最高の笑顔は?

本気の笑顔だった?

特別な笑顔だった?


ううん。

まだ特別な笑顔
じゃなくていい。


今はまだ、
私だけにくれた
まぶしい笑顔に
酔いしれたい。





だけど…





だけど…





いつか私に

特別な笑顔を
向けてくれたら…



私は凄く凄く


幸せな気持ちに

なれるのかも

しれないな…。



風が吹く。

強く、強く、
吹き続ける。


私が感じていた
もう一つの不安が


強い風に
流されて、

どこか遠くへと、
流されて…。