「ルカ様、失礼致します。
お茶の用意ができ――…」
お茶の乗ったトレイを片手に、ルカ様のお部屋のドアを開けると。
「し、失礼いたしました」
ルカ様が、サラ様を壁まで追い詰めていた。
い、いかがわしいですよ、ルカ様。
私は慌ててお二人から目を逸らし、ドアを閉めようとした。
「ちょ…ちょちょちょ、シキっ!!」
サラ様が、私を止めた。
止めないで下さい、サラ様。
邪魔者は退散致しますので、ごゆっくり。
「ちょっと、シキっ!!
助けてよっ!!
つーか、おまえも早くこの手を離せっ!!」
「うっ……」
サラ様のパンチが、ルカ様のみぞおちに。
ルカ様の手がサラ様の頬から離れた隙に、サラ様が私の後ろに逃げてきた。
「サラ様、なぜ私の背中に隠れるのですか?」
私の背中に身を隠し、背中を丸めるサラ様。
「だって!!
あいつ、いきなり私の血を吸おうとしたんだぞ!?」
「まぁ、ルカ様ったら、そんな乱暴なことを?」
そんなにサラ様がお好きなんですか。
「シキ、あいつの暴走を止めろっ!!
こんなんじゃ、教育なんかできないだろっ!!」
サラ様が私の体を激しく揺らす。
その度に、トレイの上のカップが音をたてた。
「……貴様。
人間の分際で、この俺を殴りやがったな」
フラフラと体を起こすルカ様。
魔界の王子の、残念なお姿。
普段なら、相手の攻撃を先読みして動けるお方なのに、サラ様相手だと、その感覚も鈍ってしまうのですね。