「僕は余った役とかでいいよ?」
「なに言ってるんです、佐野くんが主役ですわよ?」
「主役!? え、でも主役はやりたい人が他にいるんじゃ」
「佐野くんを差し置いて、主演なんて……」
「そうよ、佐野くんが一番上手に決まってますもの」
「定期発表会は予想外な来賓なんかも来るんだ。そんな大舞台で主役をはれるのなんて、君しかいないよ」


きらきらとした視線が、一心に真琴に向けられる。

なんだかんだと理由をつけてはいるが、日本が誇る若手実力派俳優の演技を、間近で生で観たいというのが、きっと一番の動機だろう。

人の良い真琴が、そんな期待に輝かんばかりの幾つもの眼差しを、無下にできるはずもなかった。
絞り出すように、苦笑いを浮かべる。


「ほ……ほんとに……僕で、いいの……?」


途端に、教室中が沸いた。

変わらないのは真琴の前の席、机に肘をついて俯いている――かくんと舟を漕いだ、直姫だけだ。


「受けてくれるの!? やったあ!」
「そうと決まれば次は演目ね!」
「主役が佐野くんですもの、やっぱりここは王子様とお姫様のロマンティックな恋物語がいいですわ……!」
「ロミオとジュリエットなんてありがちすぎるかしら?」
「ありがちでいいじゃない! 素敵よ」
「でもここはあえて、誰でもよく知っている童話なんかにオリジナリティーを加えたり……」