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「あら、じゃあ日本にいる間は、石蕗先輩のお宅に?」
「えぇ、昨日からホームステイさせていただくことに。一昨日まではホテルだったのですけど、なにしろ遠いじゃない? 先輩のお宅なら学校から近くて通いやすいということで、先方からご提案してくださいましたの」
「いいですわねえ……石蕗邸っていったら、それはもう立派な日本家屋ですもの。やっぱり日本に来たなら和の文化に触れておきたいですわよね」
「そう、昨日は離れの茶室や見事な石庭を見せていただきましたの。あの景色だけでも、来日した甲斐がありましたわ」
「まあ、羨ましいですわ……」
翌朝。
里吉とクラスの女子数名のお喋りが、賑やかな笑い声を交えて聞こえてくる。
「すごい猫の被りよう……」
「昨日はあの紅先輩相手に低レベルとまで言ってたのにね」
そして教室の反対側の一角では、呆れ返る直姫と真琴の姿が見られた。
悠綺高校は、なにしろ広い。
悠綺大学、附属幼等部は町中の一等地にあるのだが、まとめておくにはあまりに場所が足りないので、初等部から高等部までは場所を別にして、都市郊外の自然の中に敷地を構えている。
そのため、来日以来里吉が泊まっていたホテルからでは遠く、車で一時間半もかかるのだ。
そこで、それならもっと近いところにホームステイしたらいいじゃないと提案したのが、理事長である紀村悠子である。