「どうりで夏生が覚えていないわけだな……」


応接テーブルには、数枚の写真が置かれていた。

三年前のパーティーの様子を撮影したものだ。
さすがに公の場で、主役の長男が女装した姿を堂々と晒すわけにはいかなかったのだろう。

そこに写る姿は、きちんと男性用の礼服を身に纏った、どこからどう見ても少年のりよの姿。
長い髪だけは同じだが、一つに結って背中に垂らしてある。

ナチュラルメイクにプリーツスカートという装いの今と、もちろんこれといった化粧はしていない写真の里吉を見比べて、真琴は苦笑を漏らした。


「そうですよね。三年前は男だったんだから」
「なに、夏生に惚れて、本格的に目覚めちゃったってこと?」
「まじ? じゃあこの子がはるばる来日したのも俺たちが無駄にバカにされたのも、全部お前のせいじゃん」
「は? 冗談じゃないよ、やめてくれない」


夏生の周りからは、明らかに面白がっているような横槍が入る。

それを鬱陶しそうに交わす夏生の様子に、直姫はなんとなく違和感を抱いていた。
いつもならば、相手が誰であろうと、生徒会役員たちと顧問の居吹以外の人間であるなら、絶対に被った猫を下ろしたりはしないはずなのだ。

直姫が、人知れず首を捻った時だった。

居吹が、「あぁ」と思い出したように声を上げた。
そして、ジャケットのポケットから、白い封筒を取り出す。


「忘れてた。夏生、理事長から手紙が来てる」
「……俺?」
「生徒会宛てだ」


そーゆうのって普通顧問が開けるんじゃないの、と准乃介が小さな声で言う。
だが不良教師はそれに構うことなく、夏生に手紙を手渡した。