夏生は冷めた目で、隣のソファーで姿勢良く座っている少女を見下ろした。
眉をわずかに寄せて、それから、ゆっくりと言った。
「……だれ?」
一瞬の沈黙が訪れる。
「え? 誰って」
「三年前に会ったんじゃないのか?」
「さあ、一度見た顔はそう忘れないはずですけど。でもこの顔は記憶にないですよ」
「え、先輩すごいですね」
「当たり前でしょ。……BTSの志都美社長ご一家とは確かに挨拶したけど、あそこに娘なんて……」
「へ?」
夏生と里吉の話は、なぜか明らかに根本から食い違っている。
なにか不穏な空気が流れはじめたところで、直姫が「あれ?」と声を上げた。
「そっか、志都美さんですよね、BTSの。どこかで聞いた名前だと思ったら、確か、うちの父とも面識が……」
「え、ホントに?」
「うん、大学の後輩だったかな……BTSは父のスポンサーになってるはずです」
「父って、政治家のお父さん?」
「ええ。小さい頃に何度か、志都美社長がご家族で遊びに来たことが……多分、だから自分が女ってことを知ってるのかも」
「なるほど……」
「でも、変なんですよね……やっぱり、子供は女の子じゃなくて……」
「ちょっと! あなた、余計なこと言わないでくれます!?」
直姫の意味深な言葉に、りよが噛み付く。
「うるさいな、夏生先輩だって言ってたじゃん」「う、うるさい……!? このわたくしに向かってうるさいですって!?」なんて、温度差の激しい言い合いをしていた、その時だった。
突然、生徒会室の扉が勢いよく開いたのだ。