りよの父、つまりBTSの社長は、一代で小さな文房具メーカーを日本有数の企業へと発展させた二代目社長の、娘婿である。
三代目の社長にして、義父が大きくした会社をさらに規模拡大し、海外進出までやってのけた有能な男だった。

三年前、彼が生まれてちょうど半世紀、五十歳の誕生パーティーを開いた際のことだ。

学生時代の同級生や先輩後輩など、古い知人にまで片っ端から、招待状とイギリスへ飛ぶ飛行機のチケットを送り、盛大なパーティーになった。

東雲財閥の現会長、夏生の父は志都美の大学時代の先輩だそうで、交流も深かったらしい。
招待状にはご家族も一緒にぜひ来て欲しいという手紙を同封し、チケットも人数分を送ったのだ。


「その時にお見かけしたのが、夏生様でしたわ」


そう言って、夏生をちらりと上目遣いで見上げた。
自分を見つめるその切れ長の目に、夏生はなにか思うことがあったのか。

関心なさ気に目線を外すことはなかった代わり、その顔は、片目をわずかに細めた思案の表情だった。


「こんなに知性と麗しさを兼ね備えた殿方を見たのは、生まれて始めてでしたわ。あの瞬間から、夏生様のことが忘れられなくなってしまいましたの」


胸の前で両手を合わせて、頬を緩める。

始めこそなにか夏生をからかうネタになるのではと思ってきちんと聞いていた彼らだが、りよが語るのは夏生への称賛の言葉ばかりで、次第に飽きてしまっていた。
そうなると自然と、ひそひそ話が繰り返される。


「単なる夏生の追っかけか……」
「なんだー」
「なんかもっと……許嫁とかなら面白かったのに」
「生き別れた妹さんとかどうかにゃ」
「別におもしろくないよ。つーか……」