「私の父と夏生様のお父様は昔からの知人ですの。あれは三年前のこと……」


誰も尋ねてなどいないというのに、むしろ厄介事が増えそうな気がして故意にそれを避けていたというのに、わざわざ語り出してしまった。

長くなりそうで退屈だと思った直姫は、夏生の座るソファーの背もたれに身を乗り出して、小声で話しかける。


「東雲グループって具体的にどこまでやってるんですか」
「うち? んー……ホテルとか、レストランとか、旅行会社とか色々?」
「あ、ホテルは泊まったことあります。北海道の」
「そう」
「ちょっと! 人が話しているときはきちんと聞くべきじゃありません!? ていうか夏生様と馴れ馴れしく話さないで!」
「あぁごめん、続けてください」


だがすかさず飛んできたりよの怒声に、直姫は肩を竦めた。
このひとめんどう、と夏生に目で語ると、彼は無言で肩を竦め返す。

りよは自分に注目が集まっていないと気が済まないたちなのか、全員の目が自身に向いたのを確認して、ようやく満足そうに話を再開した。


「その年、イギリスのBTS支社で父の誕生パーティーがありましたの」


***

それから先の彼女の話はとんでもなく長く回りくどくなったので、分かりやすく思いきって省略することにしよう。