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北校舎三階、生徒会室前の廊下は、混乱の体を帰した。
夏生と直姫は平然とした顔で戸惑い、准乃介は誰この失礼な子とばかりににっこりと微笑み、あとの四人はただただ唖然としていた。

色々なことが、面倒だと判断したのだろうか。
とりあえず座って話そう、という夏生の提案で、結局生徒会室の無駄に豪華な応接スペースに場所を移したのだ。

少女――志都美里吉を中心に、とりあえず夏生と紅がソファーに腰かける。
彼女が夏生に渡した名刺が、聖に回ってきた。
それを横から覗き込んで、直姫は首を傾げた。


「BTS社長子女、志都美……サトキチ?」
「りよですわ! なんなんですのあなた、さっきから失礼ね!」


同じクラスへの留学生だというのに、なぜ朝から今まで彼女の存在に気付かなかったのだろうか。
聖がつっこみたそうにうずうずしていたが、そういう雰囲気ではないのを察して、口を噤む。

きっと、鈍さとか他人への興味のなさとか、睡眠不足とかが災いしたのだろう。
見るからに女なのに酷い間違え方をして、りよを苛立たせる。

直姫にはさっぱり悪気はない分よりたちが悪いが、最もなはずのりよの怒りも、どの口が人に失礼などと言うのか、といった感じだ。
つまり、どっちもどっちである。

直姫は夏生の座るソファーの背もたれに手を突いて、のらりくらりとりよの鋭い視線を交わしている。

すると、りよはビッと指を突き付けた。
線の細い少女にしては、やけに大きな手である。