「あれ? なんだ、皆もう来てたんですか」
一般の生徒が見ている可能性のある廊下なので、猫被りモードの夏生である。
さんざん遅れておいて「もう来てたんですか」はないだろうと思うが、すでに疲れ気味の彼らには突っ込む気力もない。
「……こちらは……?」
少女と目が合い、夏生は最もな問いを口にした。
唯一ちゃんと彼女の素性を知っている真琴が口を開こうとするが、それは直後の急な出来事で、あまりに強引に遮られた。
「夏生様……!」
少女の態度が豹変したのだ。
それまでのヒステリックで刺々しい声色とは別人のような声をあげ、夏生の手を取る。
「お会いしたかった……!」
「え……」
彼らの口から出た音は、偶然にも、七つとも同じものだった。
うち一人は見ず知らずの少女にいきなり突然手を握られたことに、その他は自分たちに対する態度との温度差に、驚いていたのだ。
かくして、退屈で呑気で穏やかで平和な彼らの日常を覆す大事件は、大体この辺りから幕を開けることになるのである。