「……西林寺、直姫さん?」


どこか高飛車な声色。
横を向くと、あまり見覚えのない女子生徒が、そこに立っていた。


「そうですけど……、何か?」


誰だったろうと、不思議そうに問いながら記憶を辿る直姫。
小首を傾げると、女子生徒の眉間に薄いしわが寄った。


「……私、今日から留学生として来たんです。あなたと同じ一年B組なのですけれど?」


眉をしかめ苛々と言う彼女に、そういえば今朝真琴がそんなようなことを言っていた、と思い出す。

留学生というから、てっきりイギリス人なのだと思っていたのだ。
思っていたのに、そのイギリス人らしき姿が見えないことも、教室のある一ヶ所がやけに盛り上がっていることも、まったく意識せずに一日を過ごしていた。

自分のことながら、どうやって授業を受けていたのだろうと不思議でしょうがない。


「あぁ……すいません、今日はすごくぼんやりしてて」
「まったく、どうしてこんな人っ……」
「へ?」


こっちの話です、と不機嫌に言って、彼女は続けた。


「会いたい人がいますの。生徒会室に入れてくださらない?」
「え、それはちょっと……まだ鍵も開いてないし」


さすがに、顧問にも無断で部外者を入れるわけにはいかない。
その顧問がほとんどここに現われないことはさておき、である。

しかもそれがこの“悠綺高校の生徒会”に関してならば、特に言えたことだ。

なにしろ、彼らに個人的に会いたいという人なら、常に五万といると言っても過言ではないのだ。
留学生だかなんだかはよく聞いていなかったが、彼女だけ特別扱いなんてできるはずもない。