青々とした若葉が、桜の木を覆っている。
つい最近あった盗撮事件のことも、盛り上がった定期演奏会のことも、徐々に話題に上らなくなってきた、五月の下旬。

悠綺高校生徒会はあいも変わらずのんびりぐだぐだと、活動しているんだかサボッているんだか、とりあえず生徒会室に集合していた。

真琴がにこにこと窓の外を見上げる。


「もうすぐ梅雨ですねえ。こんな快晴もあと少しかなあ」
「もう夏じゃんこれ……あっつい、早く夏服になんないかな」
「バカ言ってんじゃねーよ、ぬるいぞ直姫! 夏の暑さがもしこんなもんだったら、俺を筆頭に世界中の夏人間が不完全燃焼で死ぬだろーが!」


大袈裟に立ち上がった聖に、窓際の夏生がぼそりと「聖なんか煮えればいいのに、猛暑で」と呟く。
それを聞いた聖が、眉を寄せた。


「ほんとそれ……俺毎年三、四回は倒れてんだよ。どーゆうこと?」
「意外と病弱にょろよねえ……ひじりんは夏が好きだけど、夏はひじりんを好きじゃにゃいにょろ」
「あっ言い方にトゲ」


きゃいきゃいと騒ぐ聖と恋宵に、紅が溜め息を吐いた。


「静かにしろ。そんなに夏がいいなら南の島にでも行ってこい。私の家のビーチなら貸してやる」
「あ、ビーチいいねえ。夏休みに行こーよ」


そんな呑気な彼らは、知らなかったのだ。
こんな平和で退屈な日々が脆くも崩れ去る危険が、まさにすぐそこ、南校舎の一階辺りまで迫っていようとは。