「……え、直姫?」
「……」
「おーい?」
「……」
「直姫ってばー」
「……ま、真琴」
「なーに?」
「どーしよ……」
ぎぎ、と骨が軋む音すら聞こえそうなほどぎこちない動作で顔を上げた、その表情を見た瞬間に、真琴は浅く数回頷いた。
(やっぱりラブレターか……)
そして直姫の情けなく下がった眉尻を見て、ふ、と吹き出す。
「……直姫のへたれ」
笑いを堪えながらそう言う真琴に、うるさいな、と不機嫌に返した。
『西林寺直姫くんへ。
あなたのこと、はじめて見た時からずっと好きでした。
でも西林寺くんが思ったより鈍かったから、今回は諦めてあげます。
西林寺くんがびっくりするぐらいのいい絵描きになって、いい女になって帰って来るから、覚悟しておいてね。
城ノ内未奈より。』
女の子ってなんか強いな、と思った、自分も紛うことなき女である、直姫だった。
(つづく)
20110501/20130525修正