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ところ変わって、直姫が更衣室に戻って制服のジャケットを羽織り、観客席へ戻ろうとした時。
同時に隣にある控え室の扉が開いて、話しながら出てくる二つの人影があった。
「先輩、いませんね、西林寺くん」
「全く……、どこに行ったのかしらね」
耳に入った会話に自分の名前が出たことに驚いて、直姫は再び更衣室へと体を引っ込めた。
すぐさま、真琴の言っていたことが思い当たる。
写真部が、まだ直姫を探していたようだ。
(見つかったら面倒そう……)
そのまま隠れて二人をやり過ごそうと考えていた時だった。
通路に置いてあるなにかが、暗闇に慣れてきた視界に入る。
(え……まだ置いてある?)
直姫がさっき躓いたのと、同じ物だ。
なぜ誰も退かさないのだろう。
危ないとは思いながらも、彼女らがいては、出るに出られない。
すると、写真部の部長である女子生徒が、それに気付いたらしい。
「ちょっと!」
「は、はい」
部の後輩なのか、彼女を先輩と呼び一緒に直姫を探していた男子生徒に、声をかける。
そしてその、通路の邪魔になっている物体を指差した。
「これ、うちの機材でしょう。ずっとここにあったの? こんなところに置いておいたらダメじゃない、危ないわよ!」
「あ、すいません!」
男子生徒が、慌てて駆け寄る。
そしてその、撮影機材が入っているらしい大きなスポーツバッグを肩に掛けると、他の場所を探しに去って行ったのだった。
「…………写真部かよ」
そんな直姫のやるせない突っ込みも、会場に響く恋宵の歌声とギターサウンドと、生徒たちの歓声に、掻き消されていったのだった。