「あれ? 直姫、ジャケットは?」


真琴に言われて直姫は、自分がカッターシャツにニットのベスト姿なのを思い出した。
城ノ内未奈を探しに行くために急いで着替えたので、ジャケットを着ずに出てきてしまっていたのだ。


「忘れてた……取って来る」
「え、でも今」


真琴がなにかを言おうとしたが、直姫はすでに、捻った足でひょこひょことホールを出て行ってしまったあとだった。
ステージ側にある通用口から、直接舞台裏へ向かう気なのだろう。


「写真部が、直姫探して、舞台脇の控え室のほうに行ったんだけど……」


残された真琴は、あーあ、と呟いて、舞台に目を移す。
するとちょうど、恋宵がアンコールに答えて謎の曲紹介をしている最中だった。


「それじゃあー、生徒会室でしりとりしてるときに思い付いた曲を歌います! それでは聴いてください、『耳がダンボ』! いっぇーい!」


いつの間にかバックバンドがスタンバイ済みだ。
きゅいぃーん、と先陣を切って恋宵が掻き鳴らす、どぎついピンク色のエレキギター(恋宵の愛用品らしく、生徒会室でもよく爪弾いている)。
呼応するように観衆から沸き上がる、大歓声。


「しりとり……」


したっけ、と、真琴は呟いた。

なぜかしりとりが好きな彼女の、突然の思い付きに参加させられるのは、いつも聖と真琴の二人である。
思い出そうにも、連日のようにやり過ぎていて、どの時なのかわからないのだろう。


「ていうか……なんですか、その曲名?」


真琴が温く動きのないホールの空気にぼんやりとする頭で考えている間にも、恋宵は謎の楽曲を熱唱していた。

『耳がダンボ』は、やけにアッパーなロックチューンだった。