また泣くのではとぎょっとすると同時に、青褪めた唇から発したその言葉に、直姫は違和感を覚えた。

まるで彼女は、直姫の怪我のことを知らないようだ。
確かに、真琴や麗華たちに囲まれて手当てを受けていたあの時、控え室で彼女の姿は見かけなかった。

あれは脅迫状を書いた人物が直姫に怪我をさせようとしたのであって、当然そこに障害物を置いたのも城ノ内だと思っていた直姫は、首を傾げた。


「もしかして城ノ内さん……劇の間って、ずっとあの階段に?」
「え? えぇ……本番は幕の操作の担当でしたから、はじめからずっと」


直の部屋、パーティー会場、蛍の部屋など、場面は限られてはいるが、その代わりに場面転換はこまめにあり、幕の開閉は頻繁にあった。
そしてその担当は彼女一人であるため、ずっとレバーのところに張り付いていなければいけなかったはずだ。

直姫が荷物に躓いた通路とは、舞台を挟んだ反対側。

それはつまり、城ノ内が劇の最中に通路に障害物を置くのは、不可能、ということだ。


(え、じゃあ、あれは誰が──?)