涙の滲む声で、ぽつりぽつりと話し始める。
城ノ内未奈は、自分を正当化するでもなく、ただ“傷付けたかったわけじゃない”ということを懸命に言葉にしようとしていた。

直姫はそんな彼女の隣に屈み込み、目線を下げて言う。


「あの……城ノ内さん。真琴のキスシーンを止めたかったんだろうけど、今回だけじゃないだろうし、いちいちこんなことしてちゃキリがな」
「西林寺くんがキスシーンなんて、絶対に嫌だったの……!」


予想外の言葉に、咄嗟に言葉は出なかった。
間抜けにも、ただの音だけが口から発せられる。


「……え?」
「どうして西林寺くんがシンデレラなんですか! ヒロインなんだから女の子がやればいいじゃない! 佐野くんの相手役ならやりたい子がいっぱいいるでしょう!?」


泣きそうな顔で叫ぶように訴える彼女に、唖然とする。
これまでにないほど目を丸くしていたが、そんなことを意識する余裕もまったくなかった。


「……自分、ですか?」
「そうよ! 佐野くんが誰となにを演じようがどうでもいいわ、ただ西林寺くんが殿方とキスシーンなんて……私にはっ、堪えられなかったんです!」


ついには両手に顔を埋め、わっと声を上げて泣き出してしまった。
直姫の頬が、ひくりと引きつる。


「え、あの、でも、ほら、結局キスシーンなかったんだし……ね、……その」


女の子に泣かれる、なんていう経験したことのない事態に、直姫らしくもなく、おろおろと焦ってしまう。
しかし泣き声は一層大きくなるばかりで、途方に暮れた直姫の思考は、現実から遠いところで傍観していた。

さすがお嬢様、泣き方も完璧にかわいらしい。

というか、いけないことをしたのはこの子のはずなのに、どうして自分がこんなにいたたまれない気分にならなければいけないのだろうか――。

そしてなぜか思うのは、あの猫被り生徒会長やフェミニストな先輩ならば、こんな時に女の子をうまく慰める方法も心得ているんだろうな、なんて。