「この絵は確かに私が描きましたけど……、そんなの偶然じゃ」
「絵の具で全く同じ色を作るのは、ほとんど不可能だって真琴に聞きました。美術部員の君にとっては、常識なんでしょう?」
「で、でも……」
「それから、劇のラストシーン。ライトは偶然落ちたんじゃない、誰かがキャットウォークへ上がってボルトを外さないと、落ちなかったはずです」


口の中を潤すように、一度口を閉じる。
そしてすぐに開いて、続けた。


「でもキャットウォークへ行く階段には、幕の開閉を担当してる人がいました。細い階段ですれ違うのは無理だから、一旦下に降りなきゃいけない。そんな動きをしてれば誰かの目に留まったはずだし、それになにより」


直姫は、彼女の視線を無理矢理あげさせるように、じっとその顔を見た。


「幕の担当でその階段にいた、城ノ内さん……君が通すわけはないよね?」
「そ、れは……」
「そのスパナ、なにに使ったんですか」


彼女の目を真っ直ぐ見据えて淡々と話す直姫の、責めるでも咎めるでもない、単調な様子に追い詰められたのか。

城ノ内未奈は、おもむろに膝からくずおれて俯いた。
両手で顔を覆った拍子に、からりとスパナが転がる。


「だ、だって私っ……堪えられなくて、」