「委員長……大丈夫?」
「だだだだだいじょうっ、ぶ! だよ、うんっ」
「め、眼鏡逆さまだよ」
「えっ? あっ、ああ、ハハ、ハハハハハ」
裏方なのだから舞台には上がらないというのに、緊張のあまりに舌も回らず、指も震えている。
少しも大丈夫ではないことが一目瞭然である。
一人はかちこち、そんな彼の様子に緊張を煽られている一人を、残るもう一人が半眼で眺める。
そんな彼らのもとへ近寄ってきたのは、凛とした朗らかな声だった。
「大丈夫ですわ委員長、稽古通りにやれば絶対にうまくいきます!」
一際通りのいい、お嬢様口調。
今回やけに張り切って指揮を取っている、彼女だ。
「お、大友さん……」
「私たちが舞台に上がるからには、必ず観客を楽しませて見せます! 委員長、あなたは大船に乗ったつもりで、ご自分の役目を全うしてくださいまし」
「そ、そっか……なんだか、大友さんがそう言うなら大丈夫な気がしてきたよ!」
「ええ委員長、大友の名に二言はありませんことよ。それに、委員長であるあなたがそんなことでは、皆さんを不安がらせてしまいますわ。しっかりなさい!」
大友麗華嬢の根も葉もない激励の言葉に、山田琢己はやっと少し笑顔を浮かべられた。
くどいようだが、彼は裏方なので舞台に上がることはない。
本番での彼の役割はといえば、主に舞台袖からクラスメイトを見守ることである。
それでも麗華の自信に満ちた言葉に、同じように皆少なからず奮い立たされたのだった。