「大友さん、これどういうこと?」
「どうって、ラストシーンですわ。二人の抱擁とキスで幕が下りますの」
「いや、だから、キスシーンって! だって僕たち……」
「わかっていますわ、お二人とも殿方なのにと、そういうことですわね?」


力強く頷く彼女に、真琴がいくらか安心した顔をする。
だが、麗華はつらつらと言葉を続けた。


「そうなんですの、私も正直迷いましたわ。でも考えてみてくださらない? 男女でキスシーンを演じれば、佐野くんの相手役の子は、あなたのファンに謂われのない中傷を受けるかもしれませんわ。もちろんそんな酷いことをする方がこの悠綺高校にいるなんて思ってはいませんけれど、なにしろ恋をすると女の子は周りが見えなくなりますのよ。あるいは彼女は、プロの俳優相手にヒロインを努めるプレッシャーに負けてしまうかも。けれど男の子同士ならどうでしょう? 至近距離でじゃれあったところで、それはスキンシップの範疇ですわ。例え片方が可愛らしいお嬢さんに扮装していたとしても、なんら問題ないと思いませんこと? それに直姫くんは佐野くんのご友人ですから、他の誰よりもプレッシャーに打ち勝つことができると思いましたの。ご理解いただけまして?」


そこまで言い切って、彼女は小首を傾げる。

高波のように押し寄せる声と言葉に、たっぷり五秒の間を置いて、真琴は「え?」と聞き返した。

口も開けたままで、目も丸く見開かれている。
唖然、という言葉がこれほど似合う表情はないだろう、というかんじだった。

え、だの、あぁいや……だの、しばらく音だけを意味なく発してから、ようやく思考が追い付いたのか、真琴は真剣な顔で言った。


「あ、あの……どうしてキスシーンは絶対なきゃいけないもの、みたいになってるんですか」
「いやですわ、佐野くん。なにを言っていますの?」


麗華は、にっこりと微笑んだ。
可愛らしい笑顔ではあるが、だがそれは真琴や直姫にとっては、ただのとどめといってよかった。


「だって、ラブストーリーはキスシーンで終わるものと決まっているでしょう?」