「あら、そうなんですの?」
「ギャップね!」
「乙女心を擽りますわ」


彼の不自然な様子は気にも留めず、うふふ、と笑い合う令嬢たち。

真琴の口許が引きつっていることや、早口で割り込むように不自然に話に入ってきたことは、気にするほどのことではないらしい。

お嬢様というのは、おおらかというよりもただ単にあまり周りをよく見ていないだけなのかもしれないと思った、自分だって曲がりなりにもお嬢様である直姫だった。


「西林寺、佐野とのシーンの練習に入るよ」


休憩は終わり、と委員長の声が飛んでくる。

直姫が振り向いて「うん、今行く!」と返事をすると、談笑していた中の一人が、空のトレイを差し出した。
空のコップはここへ、ということなのだろう。

礼を言ってコップを置くと、がんばってくださいね、という声を背中に、二人は委員長のもとへ
向かう。


「はぁ……びっくりした」
「え? なにに?」
「松浦さんたちの話だよ! 直姫がそんなかっこしてるから」
「しょうがないじゃん、劇なんだから。てゆうか、なんで真琴が焦ってんの?」
「少しは焦ろうよ直姫も!」


自分のことに無頓着、というか、なんというか。
直姫がそんななので、真琴が気を回してフォローに回ることも、もう数回に及んでいた。

悠綺高校は滅多なことがない限り、昇級時にもクラス替えというものがない。
つまり、直姫と同級生でいる間中続くであろう、彼のこの細かい気苦労も、滅多なことがない限りはなくならないわけだ。

真琴は、入学してからもう数度目になる、これからの三年間への不安を感じた。