「まあ、イヤだけど……なかなかこんな機会ないし、ちょっと面白いかな」
「あら、意外と楽しみ上手ですのね」
「みんな準備頑張ってるしね……自分だけ文句言うわけにはいかないよ」


眉尻を下げて笑うと、少女らからは、感嘆混じりのの溜め息のような声があがった。

実のところは「無駄に張り切って」だとか「吐くほど嫌だけど」だとか「もう帰りたい」なんていう本音が所々に挟まるのだが、それはうまいこと隠している。
余計な言葉を少し口にしないというだけで、印象というのはどこまでも変わるものなのだ。

直姫にしてみれば、夏生直伝の『対処に困ったら儚げに笑っとけ』というのを実践してみただけで、本当は皆の頑張りがどうこうという殊勝な考えは一切持ち合わせていないのだが。

しかしその儚くも慈しみ深い笑顔に、一瞬のうちに耳の先まで真っ赤に染めた純情な乙女たちには、そんなこと気付きようもない。
お嬢様はおおらかなだけでなく、少し鈍いところもあるようだ。

ただ一人、少し離れたところから見ていた真琴だけは、直姫の心底の声が表情からなんとなく読めたようで、少し困った顔をしていた。


「でも、パーティーでのドレス姿も楽しみですわ」
「え?」
「だって本当にかわいらしいんですもの。女の子みたい」
「ちょっ! な、なに言ってんのあはははは、直姫ってすごい男らしーんだよ? もう豪快すぎて困っちゃうっていうか」


直姫が少女たちに囲まれているところへ突然入ってきたのは、その真琴だった。
松浦嬢がことりと首を傾げる。